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【第三回】論争の余地なきおすすめの本ーカール・ヤスパース『哲学入門』ー

【第三回】論争の余地なきおすすめの本ーカール・ヤスパース『哲学入門』ー

こんにちは。

北畑淳也と申します。

今回は第三回といたしまして、前回に引き続き「論争の余地なき」という傲慢なタイトル付けで書評を書かせていただきます。

今回おすすめの一冊としてご紹介したいのは、カールヤスパースの『哲学入門』です。

 

あらかじめこの本の偉大さをお伝えしますと、「哲学」に対する我々の偏見を取り払うところにあります。

そして彼の述べる「哲学」こそがいかに重要かをこの書を読み終えた時に多くの人が感じることをお約束いたします。
今日はその一部だけご紹介いたします。




以下の順でお話できればと考えています。


  1. 我々の「哲学」に対する途方もない誤解について

  2. ヤスパース哲学のこれからの時代における真価について

  3. 『哲学入門』と合わせて読みたいおすすめの本


我々の「哲学」に対する途方もない誤解について


いきなりですが、質問です。

 

「哲学」と聞いてどういう営みをイメージしますか。

代表的なものに2つあるのではないでしょうか。

 

最近は「成功哲学」なんて本も流行っており「人生で成功するために持っておくべきスタンス」というイメージがよくあるものの一つです。

もう一つは、ある人があーでもないこーでもないと唸っているイメージでしょうか。

 

 

あらためてですが、現代社会においてはこの2通りが「哲学」という言葉に対するイメージとして一般的なのですが、ヤスパースの考える「哲学」はまったくもって異なります。

 

ここが『哲学入門』の読みどころです。

そして彼の述べる「哲学」こそがこれからの時代でより真価を発揮すると私は考えています。



少しだけご紹介いたします。

 

彼によれば、「哲学」とは以下のようなものです。
すなわちそれは、私たちは現存在の根拠についての問いに関してなんらの答えも得られないのではあるが、しかしその本性上無条件に存在し、また存在しないはずはなく、かつそれによって他の一切のものが存在するところの包括者へと導かれることによって、確認されるような確実性なのであります。

カール・ヤスパース『哲学入門』

 

彼によれば、「哲学」とはなんら答えをもたらさないが、一方で、人間はそれなしに存在はしえないのだというのです。

ここでヤスパースの論に基づけば先ほど挙げたうちの二つの片方がおかしいことに気づくのではないでしょうか。

 

そうです。「成功哲学」という言葉です。

彼の「哲学」の定義に基づけば「成功哲学」というものは語義矛盾ということになのです。

 

平たくいえば、「成功哲学」なるものは「成功」のための方法論を「科学」しているのであって、「哲学」ではないということなのです。

 

彼の考える「哲学」とは「単一解」を出すところには宿らないのです。一つに収斂することを断固として拒否します。

 

そして、続いてもう一つの「一人で考え込んでいる」という「哲学」に対する我々が持っている偏見もすぐさまヤスパースは淘汰します。

自己自身についてくだされた判断としての個人の全くの独断というものは、実際においては、かつて現実に存在したことは殆ど無いのであります。常に彼にとって他の人の判断が重要な役割を果たしているのであります。

カールヤスパース『哲学入門』

 

ヤスパースによれば我々は一人で考えているうちにおいてはなんら判断を下すことはありえないのであって、常に他の人の判断が重要な役割を果たしているのだと指摘します。

 

「自己自身について下された判断としての個人のまったくの独断」は絶対にありえないというのはどういうことかをここでは彼の著書『哲学』にも手を出し少しだけ掘り下げましょう。

私の由来を、私の開始として、客観化してみるとき、私は、自分の現存在が、私の両親の出会いということに結びつけられており、遺伝や教育によって、また社会学的かつ経済的情勢によって規定されたものであることを知る。私の開始は、絶対的な開始ではないのである。

カールヤスパース『哲学』

 

ヤスパースは、自我を始点として行う営みを「哲学」と呼ぶことに痛烈な批判をここでは行っています。

 

実は歴史的に見ると「何か一つの解を出す」「一人で内省を重ねる」ということを表して「哲学」と呼称したのは近代以降の300年だけと極めて短い期間だけなのです。

 

 

例えば、ソクラテス、キケロといった「哲学者」として有名な人がいます。

彼らの「哲学」を見ればすぐにわかるのですが、彼らは常にと言っていいほどに対話の中で哲学を行っています。


一度彼らの著作を読んでみてください。
我々がいかに「自我」を視点とする考え方に縛られているのかをすぐにおわかりいただけます。

 



ヤスパースは「コミュニケーション哲学」という一見、それこそ語義矛盾に見える哲学のあり方について生涯を通して伝え続けた人なのでした。

 


ヤスパース哲学のこれからの時代における真価について


近代以前から近代にかけての哲学の転倒を「第一回目の転倒」と考えるならば、このヤスパースによる近代以降の「哲学」の再転倒は「第2回目の転倒」と言っても良いかもしれません。

彼は、再度古来に学ぶことで以下のことを伝えようとしています。



考えることを通して何か答えを出すところに意味が宿るわけではない。
「哲学すること自体」(コミュニケートする過程)にこそ意味が宿ると。


これに関しては、弟子であるアーレントが非常にわかりやすくまとめてくれています。


 
私の知るかぎり、ヤスパースは単独性に抗議したこれまで唯一の哲学者であり、彼にとって単独性は「有害な」ものとして映る。ヤスパースは、「あらゆる思考、あらゆる経験、あらゆる主題」を、「それらがコミュニケーションにとって何を表すのか、それらは人間を単独性に誘うのかそれともコミュニケーションを喚起するのか」といった問いに即して吟味しようとさえする。ここでは、哲学は多くの真理を調停するものとなる。それは、哲学が万人に妥当する単一の真理を手にするからではなく、あらゆる他者からの孤立のうちで各人が信じる事柄が人間的になりかつ現に真理となる場は、理性に基づくコミュニケーション措いてほかにないからである。

ハンナ・アーレント『アーレント政治思想集成2』

 

 

ヤスパースのこの考えは、「理性」という言葉に対する彼の理解を見ることで、より決定的になります。
なぜなら、ヤスパースのいう理性は、人間の内部にすっかりなおるものでもその上部に必然的に位するものでもなく、少なくともその実践的なリアリティリアリティにおいては人々の間に存するからである。コミュニケーションを望まない理性はすでに「非理性的」である。

ハンナ・アーレント『アーレント政治思想集成2』

 

 

このヤスパースの考えは、「あらゆる価値観が一瞬で崩れ得る」現代社会において非常に大切な示唆を示しています。

我々が考え抜いて「正しい」と思ったことが、すぐにそうでなくなる時代では、一人で何かを調べ考えるだけということは危険であり、容易に誤りへとつながります。


それ故に、常に「制約なきコミュニケーションの態度」を取り続けることが重要となるのです。


 


実は、ここで書いてきたヤスパースが大切にする態度を醸成する上でRead For Acitionの読書会は非常におすすめです。

 

私自身そう感じる象徴的な瞬間があって、「大学で教鞭をとっている人」「会社を経営している人」「大企業で部下を数多く取りまとめる人」などがそれらの肩書きをその場では棄て去り、一から「学ぼう」という光景を目にする時です。

 

しかもその学びを得ている対象が大学生だったりするのですからまさにヤスパースのいう「制約なきコミュニケーションへの態度」がまさに生まれる場所が読書会にはあるのです。



答えが一つではない時代だからこそ「単一の真理」を追いかけるのではなく、あらゆる可能性を思考し続けることが大切なのだといつも考えさせられます。
 

もし興味がありましたら、ご自身の興味に合わせてぜひ参加してみてください。

 

 

『哲学入門』と合わせて読みたいおすすめの本



今回紹介した『哲学入門』に関する書評を書く過程で利用した本をおすすめのものとして合わせて下記に記載します。

カールヤスパース『哲学』

ハンナ・アレント『アーレント政治思想集成』

プラトン『ソクラテスの弁明』

キケロ『義務について』

小林秀雄・岡潔『人間の建設』

エッカーマン『ゲーテとの対話』

 

 

以上となります。

お読みいただきましてありがとうございました。

 

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