book review

【第七回】論争の余地なきおすすめの本ーシモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと』ー

【第七回】論争の余地なきおすすめの本ーシモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと』ー

いつもご覧いただきましてありがとうございます。

 

北畑淳也と申します。

今日も書評を書いていきたいと思います。

 

第七回はシモーヌ・ヴェイユの『根をもつこと』をご紹介いたします。

 

早速ですが、あらかじめおすすめだという点を少しだけお話しさせてください。

 

この本の偉大さはもちろん中身もなのですが、個人的には数ある古典書の中でも我々との距離が近いと感じるところが挙げられます。

 

 

 

例えば、マルクスだったり、カントだったりと優秀な人たちの功績は色あせることはなく偉大な方々であることは間違いないのですが、なんとなく少し我々には距離が遠いなあと感じてしまう人がいるかもしれません。

 

そんな方々におすすめなのです。このシモーヌ・ヴェイユという哲学者は。

彼女は教授などにはならず劣悪な環境の工場労働者として働いた経験などもあるような変わった肩書きの思想家です。つまり、大学の一室でこもっていた人に比べて非常に我々の方に近い境遇だったのです。

 

それだからこそ彼女の文章は我々に刺さるわけです。

 

ただ、これに関しては正直、実際読んでいただけないと通じないです笑

 

とりあえず、足がかりとして今日はヴェイユのエッセンスを書かせていただきます。

 

以下の章立てで書評を書かせていただきます。

  1. ヴェイユはこの世界をどう見ていたか
  2. ヴェイユが描いた世界はもう過ぎ去った過去か?
  3. 合わせて読みたいおすすめの本

 

ヴェイユはこの世界をどう見ていたか

本題に入る前に、ヴェイユがどういう時代に生きた人かを少し補足し、話の前提を整えます。

 

シモーヌ・ヴェイユは1909年にフランスで生まれた、ユダヤ系の父をもつ女性哲学者です。

幼少の頃から体が弱く1943年の第二次大戦中に34歳という若さでほぼ無名のまま亡くなりました。それ故に大学の教授だったり優秀な論文を生前に書いていたというわけではありませんでした。

 

 

 

彼女が名を轟かせたのは実は死後でした。

知人が彼女のノートを読み、出版の衝動にかられ世に送り出したところ予想を超える大ベストセラーとなったのでした。

 

 

その売れ行きというのは世界で数多くの翻訳も出されるほどで、無名の著者のノートがまとめられて出されただけでベストセラーになるというのは異例中の異例だったそうです。

 

 

さて、プロフィールを書き始めるとキリがないので詳細はウィキペディアでも見ていただくとして、この後の流れの前振りとして押さえていただきたいことは一つです。

 

 

それは彼女がユダヤ系の生まれだったという点です。これを念頭におくとより深く味わえると私は考えています。

 

 

いうまでもなく、この当時は共産主義運動やナチスが台頭した時代でもあり、ユダヤ人というのは社会の中で孤立を極める状況でした。

 

 

それ故に、ただでさせ孤立感を感じやすい民族的バックグラウンドに加え時代がさらにそれを強化したのです。

 

 

 

 

では、ユダヤ人以外は根こぎとは無縁だったのかというとそうではありませんでした。

社会の多くの人が幾つかの理由が重なり根こぎにされ孤立感を深めた時代なのでした。(要するにユダヤ人は二重の根こぎだったのです。)

 

 

 

 

多くの人々が孤立感を深目ざるをえなかった「根こぎ」の状態を日々観察し書き留めたものそれが『根をもつこと』というものの全体像です。

 

例えば、社会的に根こぎにされることがどれほど恐ろしいかということは彼女の下記の言葉に表れています。

根こぎは人間社会にとって他に類を見ない最も類を見ない最も危険な病である。おのずから増殖していくからだ。真に根こぎにされた存在には二つの行動様式しかない。ローマ帝国期の奴隷の大半がそうだったように、死の等価物というべき魂の無気力状態に落ち込むか、あるいはまだ根こぎの害を被っていないまたは部分的にしか被っていない人々を、往々にして暴力的な手段に訴えて完全に根こぎにする行動に身を投じるか、そのいずれかである。

シモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと』

 

 

では、彼女が恐ろしいものと挙げた「根こぎ」はなぜこの時代に顕著だったのかを少しだけ具体的に書きます。

(ユダヤ人的な意味での根こぎはナチスの話で有名なので割愛)

 

 

 

これは、あくまで仮説ですが、資本主義というものが一定程度発展し、独占段階に入った時代だった(帝国主義の段階)ということが最も大きな理由だと私は考えています。

 

 

 

ここについては、レーニンの『帝国主義論』の一部を引用することで補足いたします。

いかなる独占も存在しない場合、自由競争は資本主義と商業を発達させるだろう、と仮定してみよう。ところが、商業と資本主義の発達が急速であればあるほど、生産と資本の集中はますます強まる。そして、そのような集中が進めば、その結果として独占が出現する。しかも現実には、独占はすでに出現済みなのである。ほかならぬ自由競争を母体として!

ウラジミル・レーニン『帝国主義論』

 

この資本主義の独占段階への移行と人々の根こぎとのつながりというのは、極めて強い結びつきがあります。

 

上にあるように資本主義が独占段階に入ると、ほぼすべての人間が閉め出され「根こぎ」な無産賃金労働者にされたのです。

(たくさんいた自営業者が賃金労働者になったくらいの理解で大丈夫です。)

 

 

 

同様のことを日本におけるマルクス研究家の権威とも言える宇野弘蔵が述べているため偶然ではないと思われます。

 

エンクロージャというのはお百姓の土地と農民を分離して追っぱらうことです。そうすれば土地を追っ払われた農民は完全に無産労働者になるわけです。資本の原始的蓄積あるいは本源的蓄積というのを、単に無産労働者の形成であると言ったらおかしいのですけれども、貨幣財産の蓄積だけでは資本主義にならない。労働者が無産労働者にならないと資本主義にならない。

宇野弘蔵『資本論に学ぶ』

 

この階層の特徴を一言で言うととにかくなんの基盤も持たず、日々生きることに必死となり、何に取り組もうとも憩いを見出すことができないとヴェイユは述べます。

 

ところが、われらが時代の主たる社会的困難は、わが国の労働者もまたある意味の移民だという事実に基づく。地理的には同じ場所にとどまるとはいえ、精神的には根こぎにされ、追放され、いわばお情けで、労働に供される肉体という名目であらためて認知されるにすぎない。失業はいうまでもなく二重の根こぎである。労働者は、工場にも、自分の住まいにも、彼らの味方と称する党や組合にも、娯楽の場にも、真の憩いを見いだせない。

シモーヌ・ヴェイユ『根をもつこと』

結局ヴェイユの偉大さはなんなのかというと、人々の苦悩について真っ直ぐに向き合い捉え切ったところなのです。

 

ヴェイユが描いた世界はもう過ぎ去った過去か?

で、この本を読んで真っ先に私が思ったことがあります。

 

 

それは、ヴェイユの描いた世界はもう過ぎ去ったものであるどころか今目の前で起こっているということですね。

 

賃金労働者の苦悩の所に書かれていたように、常に失業の恐怖にさらされ気の休まる暇もないのが私も含めた働く人の深層心理なのは間違いありません。

 

 

 

特に日本という国は、西欧的なコンテクストでの本当の「資本主義化」がここ数年始まったようなものなのでよりリアリティがあるかもしれません。

 

 

いうまでもなく、ここでいう「資本主義化」とは「中間層の没落」とも言える根こぎの状態の加速が挙げられます。

 

 

格差社会という言葉がバズワードとしてここ最近語られますが、ここ数年はより持つ者と持たざる者の間に大きな差が開いてきています。

 

(ここにデータを引っ張り出してきたいのですが、エッセーなのでそんな工数かけられません。許してください)

 

おそらくここから格差の解消というのは資本生産様式を採用する限りにおいては達成されるどころか日に日に不可能となっていくに違いありません。

 

 

ちなみにヴェイユがこれに対して考える解決策についてはぜひ『根をもつこと』を読んでいただけると幸いです。ちなみに彼女自体がそれの実現を「無理!」と言っているので、そこに彼女の論考の価値が宿っているわけではありません。

 

 

 

ただ、彼女が別段で一ついいことを言っていました。

それは、我々を多少なりとも救うのは、その解決策を実行することだけではないのだと。 彼女によればまずは、「自分たちが置かれている状況を理解すること」が我々を救いに導く一歩になるのだそうだ。

 

 かごの中でくるくる回るりすと、天球の回転。極限の悲惨さと、極限の偉大さ。 人間が円形のかごのな赤でくるくる回るりすの姿をわが身と見るときこそ、自分を偽りさえしなければ、救いに近づいているのだ。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』

 

ヴェイユのエッセンスからこの世界の諸相を読み取るきっかけとなれば幸いです。

 

合わせて読みたいおすすめの本

今回紹介した著書に加えて、合わせて読むとおすすめの著書を記載いたします。

 

カールマルクス『資本論』

 

シモーヌ・ヴェイユ『自由と社会的抑圧』

 

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』

 

ハンナ・アレント『アウグスティヌスの愛の概念』

 

スピノザ『神学・政治論』

 

エマニュエル・カント『道徳形而上学の基礎づけ』

 

エーリッヒ・フロム『愛するということ』

 

 

 

 

Read For Action –日本最大級の読書会コミュニティ