book review

失業率50%! AI時代には「生き方そのもの」が問われる

失業率50%! AI時代には「生き方そのもの」が問われる

書評:鈴木貴博『「AI失業」前夜――これから5年、職場で起きること』PHPビジネス新書

「人工知能によって社会全体の仕事の量が半減すれば、日本人は失業率50%の社会を選ぶか、それともワークシェアによって労働時間が半分になる社会を選ぶかの選択を迫られることになる。―――結局のところ未来の幸せとは哲学的なもの、主観的なものになる。」
(鈴木貴博『「AI失業」前夜――これから5年、職場で起きること』PHPビジネス新書,pp.199-203)

鈴木貴博『「AI失業」前夜――これから5年、職場で起きること』PHPビジネス新書

『「AI失業」前夜』。著者は、ボストンコンサルティング等を経て、現在は経営戦略コンサルタント・経済評論家として活躍している鈴木貴博氏。経済系・ビジネス系のベストセラー作家としても有名だ。

AIが人間の仕事を奪い、人間のやるべき仕事が無くなる。私たちは、こんな「AI失業」の時代を生き始めている、と鈴木氏は説く。

このように、著者の描く未来は、決して明るいものではない。

「遅かれ早かれ、人類の仕事の量は今の半分以下になる。今、労働市場で比較的高い収入が得られる仕事、言い換えると専門性の高い頭脳労働の仕事は消滅する。労働市場ではホワイトカラーとブルーカラーの収入が逆転する。涼しいオフィスに1日中座って事務処理をするような仕事も世界からは消えていく。」(同書,pp.49-50)

こんな時代に突入しつつある現状と、その原因を説明しながら、今後、5年スパンの近未来において起きることをズバリと予測する。その切れ味は鋭く、エビデンスに基づく真剣な議論には、凄みすら感じられる。

しかし、この著者が一番伝えたいことは、おそらく、本書に書かれていないことにあるのではないか。

それは、私たち新しい時代に生きる人間が、「生き方そのもの」を問われているということ、そして、それに真剣に向き合う必要があること、である。

***

「仕事は、人生における自己実現の場です。」

鈴木氏によれば、上流層のビジネスパーソンに「あなたにとって仕事とは何なのか?」と訊ねると、必ず上のような答えが返ってくるという。

また、一方では、「自由や仲間を大切にし毎日を大切に生きていく」ために仕事をするという、新しい価値観を持った人たちも、増えていることを指摘している。

「仕事とは何か。人生において仕事はどんな意味を持っているのか。」
もし、このように問われたら、あなたならどう答えるだろうか。

「AI失業」が進行する時代において、著者が例に挙げたような旧来のビジネス・エリートはどうするだろうか。おそらく、「勝ち組」になるための自己研鑽を積み、より一層仕事に専念するほかないだろう。こうして、ビジネス・エリートは、ますます「働き方改革」とは真逆の道を進み続ける。

比較的若い人を中心とする、「自由や仲間を大切に」生きることを良しとするタイプの人々なら、どうするか。彼らは、全体の仕事が半分に減るならば、給料が安くとも、いままでの半分を働いて、他の人と仕事をシェアする道を選ぶだろう。

ただ、どちらの道を選ぶかという問題は、主観的な、個人の価値観に基づくものであると同時に、一人ひとりの価値観だけに委ねることはできないという、二律背反的な難しさを伴っている。

AIによる失業をそのまま受け入れて、失業率50%の弱肉強食の世界を選ぶのか、半分に減った仕事を全員で半分ずつ分け合う(そして給料も半分にする)世界を選ぶのか、あるいは、第3の道を探るのか。この選択の結果を実現するには、法律や制度の成立が前提となる。つまり、社会全体の公共選択が必要となるのだ。

だから、私たちは、この今から、働く人同士の共通の課題として、仕事とはなにか、生きるとはなにか、人生における仕事の意味とはなにか、を真剣に考え、ある程度のコンセンサスに向かう努力を始めなければならない。

ここで必要となるのは、想像力だ。そして、今までの価値観に疑いを懐き、批判的に検討できる繊細な精神も重要になるかも知れない。

いずれにせよ、私たち「働く人」=現代人は、生き残るための自己研鑽と、仕事の外側にある・仕事以外の人生の意味を考えることとを、つまり二兎を追うことを迫られている。

これは大変な作業である。

しかし、救いはある。知的な努力を厭わない人にとって、仕事以外の人生の意味を考えるのは案外楽しいものだ。芸術や社会貢献活動などに、その意味を見出す人も多いだろうし、すでに、そのような生き方を始めている人もいる。想像力と柔軟性があれば、今までには無かった選択肢が、目の前に広がっていることに気づくだろう。

ヒントもたくさん与えられている。

「仕事」について考えさせてくれる書物は、世の中にたくさんある。そして、そのような読書は、とても刺激的で、楽しくもある。巡り巡って、今の仕事のヒントを見つけることさえ、よくあることだ。

AI失業は、経済の問題であると同時に、哲学的課題でもある。お金やワークスタイル以前の、生き方の問題を考えることから始めなければ意味がない。著者の鈴木氏が、この著書を通じて、最も私たちに訴えたいことは、じつは、この一点なのではないか。

『「AI失業」前夜』は、このような生き方を巡る議論の、大前提となる基本的認識を提供してくれている。とくに、後半には、著者の具体的な提案がたくさん詰まっている。その提案をどう受け入れるかは、読み手の人生観次第だが、そこから、意見の交換、共有、アクションに結びつけていきたい。

ぜひ、最後まで通読されることをお勧めする。

なお、仕事と人生観について、さらなる読書に進む人には、以下を推奨します。

・ラース・スヴェンセン『働くことの哲学』紀伊國屋書店
・ヨゼフ・ピーパー『余暇と祝祭』講談社学術文庫
・ハンナ・アレント『人間の条件』ちくま学芸文庫
・バートランド・ラッセル『怠惰への賛歌』平凡社ライブラリー
・國分功一郎『暇と退屈の倫理学』太田出版

(文責・原田広幸)